クラウドファーストとは、政府・官公庁・企業などが情報システムを導入・更新する際に、パブリッククラウドサービスを優先的に採用することを第一に考えること。クラウド・バイ・デフォルト原則ともいう。
クラウドファーストの概要
従来、情報システムはオンプレミス(= ハードウェア等を個別に購入する方法)での導入が一般的でしたが、現代においては様々なメリットがあるクラウドサービスの利用が一般化しました。
このような中で、既存システムのリプレイスや新規システムの導入においては、可能な限りクラウドサービスを採用できないか検討する流れができています。これがクラウドファースト(もしくは、クラウド・バイ・デフォルト)の考え方です。
クラウドファーストを採用する場合、情報システムを導入する際に「まずクラウドサービスが利用できないか」という判断を加えます。クラウドファーストの考え方は様々ですが、一般的には以下のような流れで判断を行います。
- まずSaaSの利用ができないか検討する
- SaaSが利用できなければ、PaaSやIaaSが利用できないか検討する
- これらが利用できない場合は、オンプレミスを採用する
クラウドサービスの中でも、アプリケーションまで含めて開発済みであるSaaSの利用がコスト・スケジュール面などで最も有望な選択肢となります。一方で、SaaSは機能があらかじめ用意されているものであり、自社の要件によっては採用することができません。
このような場合には、ハードウェア+ミドルウェア、もしくはハードウェアのみをクラウドサービスとして利用するPaaSやIaaSが次点の選択肢となります。
クラウドサービスの高品質化に伴い、大抵のケースにおいてはクラウドサービスを採用することができますが、求められるセキュリティレベルやシステムの業務特性などから、IaaSであってもクラウドサービスを利用できないケースもあります。このような場合の最終手段として、オンプレミスを採用します。
クラウドファーストが注目される理由
クラウドのサービスレベル向上に伴い、セキュリティレベルや信頼性、稼働率などの水準も向上しました。これにより、銀行などの一般的に保守的と思われる企業においてもクラウドサービスが採用されるようになりました。
クラウドファーストの普及に影響した大きな出来事として、日本政府が2018年6月に発表した「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」(2021年改訂)が挙げられます。
同方針では、基本方針の第一条として「政府情報システムは、クラウド・バイ・デフォルト原則、すなわち、クラウドサービスの利用を第一候補として、その検討を行うものとする。」と示されています。
下図は、「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」にて提唱されている検討プロセスです。上述の通り、まずSaaSを優先させ、次にIaaS・PaaSの利用、それらの活用が難しければオンプレミスを選択するのが基本的な検討の流れとなります。さらに、同基本方針では、SaaSの中でもよりコストメリットのあるパブリッククラウドを優先させるべきという方針も示されています。
※引用:2018年「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/cloud_policy_20210330.pdf
クラウドファーストにより得られるメリット
クラウドファーストを採用することで企業が得られる主なメリットは以下の5つです。
- コスト削減
- リードタイム短縮
- リソースの柔軟な増減
- 最新機能の利用
- 運用保守作業の削減
①コスト削減
クラウドの大きなメリットは、低コストであることです。自社のシステムをクラウド化していくことで、コスト削減効果が期待できます。
ただし、オンプレミスをクラウドへ移行すれば何でもコストが削減できるわけではありません。利用するクラウドサービスやスペックによっては、5年間など長期間で見たライフサイクルコストはクラウドサービスの方が高くなる可能性もあります。
利用するクラウドのスペックや今後の拡張予定なども考慮して、予め料金シミュレーションを行っておくことがポイントです。
②リードタイム短縮
従来のオンプレミス環境においては、サーバーなどのハードウェア調達に長い期間が必要でした。スペック決めを行った後、注文から納品まで数か月の期間が必要であり、これがシステム開発スケジュールのクリティカルパスとなるケースも多かったといえます。
クラウドを活用することで、調達のリードタイムを短縮することができます。これにより、システム開発期間の短縮や早期リリースを実現することができます。
③リソースの柔軟な増減
クラウドの大きなメリットに、リソースが可変であることが挙げられます。買い切りのサーバーではリソースを調整することができませんので、従来はかなり余裕を持ったハードウェア構成とする設計が一般的でした。一方で、クラウドでは拡張が容易であるため、必要十分なリソースを確保すればよくなります。
さらに、急激な契約数の増加や大規模キャンペーンの実施など、必要なリソースが増加した際にも、迅速な対応が可能となります。
④最新機能の利用
特にSaaSにおいては、ベンダー側でシステムのバージョンアップが行われますので、常に最新の機能を利用することができます。従来、オンプレミス環境でパッケージを運用する際などではバージョンアップにかなりの手間がかかりましたが、クラウドを利用することで、バージョンアップの影響も減らすことができます。
⑤運用保守作業の削減
インフラ面においては、クラウドを利用することで運用保守を外部化できる点が大きなメリットです。運用保守は企業にとってかなりの負担となりますので、IT部門にとってはクラウド化を推進する大きな理由になります。
最後に:クラウドファーストは民間企業においても必須
クラウドファーストという言葉を提唱したのは政府ではありますが、その考え方自体は民間企業にも通じるところがあります。クラウドの様々なメリットを考慮すると、自社のITポリシーとしてクラウドファーストを掲げていくことは有効な戦略といえるでしょう。
一方で、クラウドファーストだからと言って一足飛びに完全なクラウド化を進めることも難しいといえます。クラウド化は段階的に進めるべきです。まずは、新規システムについてはクラウドの採用を検討すること。加えて現在オンプレミス環境で動作させているシステムについて、保守切れやリプレイスのタイミングでクラウド化を進めていくことがポイントとなってくるでしょう。