モダナイゼーションとは、特にIT業界においては古くなったシステムのハードウェア・ソフトウェア等のインフラ環境を最新化し、企業の競争力を維持・強化していく取り組みを意味する言葉。
なぜ企業はモダナイゼーションを実施しなければならないのか
長期間使い古される業務システム
モダナイゼーションという言葉自体は、「現代化」を意味する英単語です。一方でITの文脈においては、モダナイゼーションという言葉は「古いシステム・インフラを刷新する」という意味合いで用いられます。
コンピューターの性能向上を背景に1970年代ごろからビジネスにおいてITシステムが導入されるようになりました。その目的は業務プロセスの効率化であり、企業の情報システムは業務プロセスごとに最適化され、例えば販売系の業務は販売管理システムとして、生産系のシステムは生産管理システムとして個別に構築されました。
また、当時はホストシステムに代表されるような重厚なシステム構成が一般的。一度導入したシステムは長期間にわたって利用が続けられました。
このような背景から、特に大企業を中心に「業務ごとに個別最適化されたシステム」「抜本的な刷新が行われず長期間利用されるシステム」「改修コストが高止まりするシステム」が量産されました。
古いシステムではDXへの対応は困難
一方で、企業がDXを推進していくためには、機動的なシステム対応が必須です。新たなビジネスを実施するにも、既存ビジネスのプロセスを刷新するにも、システム側が追従できなければなりません。多くの日本企業のシステムは、DXの取り組みに耐えられないものです。少し手を入れるだけで半年の期間がかかり、コストも数千万、数億円といった状態では、DXの実施は困難といえるでしょう。
さらに、DXにおいて重要なのがデータ活用です。データは、一元的に集約して利用することで、その価値を最大化できます。一方で、業務プロセスごとに個別最適化されているシステムでは、一元的にデータを集約することは困難です。例えば、顧客ID一つとっても、システムによって採番体系が異なっては、名寄せすらできません。
企業の競争力確保のために必要なモダナイゼーション
経済産業省の「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」では、日本企業のDXが進まない場合に2025年には最大12兆円/年の損失が生じるという強いメッセージが発信されました。日本においてはDXの取り組みの必要性が認識されましたが、一方で足かせとなるのが機動性の悪い既存システムです。
企業のシステム投資の9割以上は既存システムの維持・メンテナンスにあてられ、新たなシステム投資への余力はありません。このような状況において必要なのがモダナイゼーションです。モダナイゼーションにより、DXを実現するための素地を作りつつ、現行システムの維持コストを削減。企業は競争力を確保することができます。
モダナイゼーションのポイントは?
モダナイゼーションは具体的にどのような取り組みとして行うべきなのでしょうか。以下では、モダナイゼーションのポイントを紹介します。
企画構想・立案
企業が競争力を維持・強化するためのモダナイゼーションにおいては、現行システムの具体的な刷新計画を立てる前に、自社のDX戦略をふまえて構想を練ることがポイントです。目指すべきITモデルを定義した上で、現行システムの課題を分析する「構想の立案」と、目標を実現するための方式や基盤モデル、ロードマップを検討する「構想の具体化」のステップを踏む必要があります。
これらのステップでは、企業全体でのITアーキテクチャの定義が必要です。DXに資するITアーキテクチャの一つとしては、「業務アプリ」と「共通サービス」を分離する方法が考えられます。ビジネス環境や新規取り組み等に対して追従するため、迅速な開発が求められる業務アプリ領域については、俊敏性と柔軟性を重視します。よって、可能な限りSaaSやパッケージ、aPaaSなどを選択することで「作らない」開発を目指します。
一方で、業務・部門間で共通する領域については、共通サービス化して標準機能として提供します。例えば、データについてはシステム間での共通化が重要です。システム間でデータ形式が異なると、データの可視化や分析において障害となるため、社内でフォーマットを標準化することがポイントです。その他、認証基盤やマスタ管理など、共通化すべき領域を精査します。
目指すべきITアーキテクチャを明確にして定着させることで、モダナイゼーションの効果を実現しつつ、各事業部門の主体性や独立性などの自由度も確保することができます。
システムの優先順位付け
当然ながら、モダナイゼーションの実行にはコストとリソースが必要です。よって、すべてのシステムを同時にモダナイゼーションすることは不可能です。現行システムのどの部分からモダナイゼーションを実施していくか精査する必要があります。
移行対象を精査する際に有効なのが、下図の4つの分類です。この分類は経済産業省の「DXレポート」にて情報資産のモダナイゼーション方針検討手法として紹介されているものです。この考え方を利用し、各現行システムをプロットすることで、優先度を測ります。
例えば、既存システムのうち利用頻度が高く、機能拡張が頻繁に起こる領域(下図のA)はアプリケーションの中でも重要だと思われるため、最新技術を活用してDX化を進めていくことが大切です。一方で、利用頻度が低いものや使われていないもの(下図のCやD)は、モダナイゼーションの対象とせずレガシーを維持する、縮小・廃棄するなどの選択を行います。
※図は経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」より引用
最適な移行方法の選択
優先順位を定めたら、それぞれのシステムの具体的な移行方法を検討していきます。最初の選択肢となるのが、クラウドの活用です。クラウドには、拡張性や柔軟性の観点で従来のオンプレミス環境よりもメリットがあります。現行システムをクラウド化することで刷新できないかを検討するのが、具体的な移行方法を検討する際の最初のポイントとなるでしょう。
上述の通り、最も有効な選択肢はSaaSの利用です。既存業務がSaaSで十分に運用できるのであれば、それが最も良い選択肢となります。日本企業では難しい面もありますが、変更可能な業務プロセスであればシステムに合わせる形で変更することで、モダナイゼーションの効果を最大化できます。一方で、適したSaaSシステムが存在しない場合は、PaaSやIaaSを活用しつつ、最小限の開発範囲に抑えることが次の選択肢となります。
その他、モダナイゼーションには様々な方法が存在します。下表にて主な手法を整理します。
名称 | 概要 |
リテイン(Retain) | いわゆる延命化対応。機器更新や保守延長などで現行システムを維持する |
リフロント(Refront) | フロントUIのみをモダナイゼーションし、バックエンドシステムは既存を維持。 |
リホスト(Rehost) | アプリケーションには手を加えず、そのままクラウド等へ移行する。 |
リライト(Rewrite) | 機能は変更せず、最新のプログラム言語に置き換える。 |
リアーキテクト(Rearchitecture) | 最新の技術を利用してシステムを再構築する。 |
リパーチェス(Repurchase) | 最新の製品・パッケージ等へ置き換える。 |
最後に:モダナイゼーションは企業において必須となる
これまでも、1990年代にはホストシステムからオープンシステムへと移行する流れがありましたが、モダナイゼーションも同様にこれらのシステムからクラウドをはじめとした最新技術を利用できる環境への移行という考え方です。近年、デジタル化の流れの中でシステムが持つ役割は業務の効率化から企業の成長力の源泉として発展しています。モダナイゼーションにより自社のシステムを強化し、DXをはじめとした新たな取り組みに耐えられる状態にすることは、企業の競争力確保のために必須ともいえるのではないでしょうか。